
「ねえ、どこに帰るの?」 風がそう聞いた。
ブルーアワーの階段を登る。 街灯がひとつ、またひとつ灯っていく。 一段登るたびに、街の景色が少しずつ広がる。
昔は、この問いに答えられなかった。 「帰る場所」が、わからなかった。 どこにいても、よそ者のような気がして。 階段を登っても、降りても、同じだった。
でも今日、この階段を登りながら気づいた。
途中で立ち止まる。 振り返ると、街灯の灯りが並んでいる。 暖かい。 この景色を、もう何度も見てきた。
いつの間にか、この街が「帰る場所」になっていた。
再び登る。 風が吹く。髪が揺れる。 「答えは?」と風が促す。
「ここだよ」
即答できた。 昔の自分には、考えられなかったこと。
階段の上に着く。 ブルーアワーの空が広がっている。 青くて、冷たくて、でもどこか温かい。 この街の色だ。
風が吹く。 「おかえり」と言った。
ただいま。
居場所は、特別な場所じゃなくていい。 毎日の帰り道。 見慣れた街灯。 いつもの階段。
それが、私の居場所だった。
風が最後に言った。 「ずっと、ここにあったんだよ」と。
うん、知ってる。 今なら、わかる。