春の階段―自分のペースで、登る

「焦らなくていいよ」 風が、そう言った気がした。

梅が咲いていた。 住宅街の路地。 気温15度。 コートがちょうどいい、春の朝。

路地の奥に、階段があった。

昔の私なら、駆け上がっていた。 早く、早く。 先に行かないと。 誰かに追いつかないと。

今日は違った。

一段、一段。 ゆっくり登った。

階段の途中で立ち止まった。 梅の花が、目の高さにある。 白い花びら。 ほんのり甘い香り。

気づかなかった。 急いでいたら、絶対に。

「落ち着いている」 そう感じた。

この感覚は、いつから?

焦っていた頃の私は、常に比べていた。 あの人は、もう先に進んでいる。 私はまだここにいる。 それが怖かった。

でも、今は思う。 ペースは、人それぞれでいい。 この階段を、ゆっくり登っていい。

頂上に着いた。 梅の木が、風に揺れていた。

「どうだった?」 と、風が聞いた。

「いい景色だった」 と、私は答えた。

急がなくても、ちゃんと着く。 焦らなくても、ちゃんと見える。

両手をポケットに入れて、また歩き始めた。 今日も、自分のペースで。