春の階段―花びらと一緒に、前へ

「準備はいい?」 風が言った。

桜並木の路地の先に、階段があった。

花びらが舞っていた。 26度。今年はじめて、コートなしで歩いた日。 昨日の雨が嘘みたいに、空は青かった。

踏み出した。

最初の一段。 二段、三段。 花びらが、肩に降ってくる。

登りながら、思う。

去年の今頃は、何をしていたっけ。 前に進みたくて、でも怖くて。 一歩を踏み出せない日が続いていた。

「焦らなくていいよ」 誰かに言ってほしかった。

でも今、この階段を登っている。 花びらと一緒に。 風に背中を押されながら。

「どこへ行くの?」 風が聞いた。

「前へ」 即答していた。

自分でも驚いた。 こんなに迷いなく答えられる日が来るとは。

頂上に着いた。 街が見えた。 桜の木が見えた。 花びらが空に溶けていくのが見えた。

風が言った。 「ほら、ちゃんと来られたよ」

そうだね。 来られた。

あの頃の私に教えてあげたい。 大丈夫、ちゃんと前に進めるよ。 花びらが降る春に、軽やかに階段を登れる日が来るよ、と。